2004年1月18日
全日本 2004新春シリーズ 大阪府立体育会館大会観戦記 |
観衆:4100人
凡そ1年ぶりの全日本観戦。昨年来全日本プロレスは、Wrestle-1の開催など、違う路線の模索に躍起になっていた印象があるが、それが果たして新規ファンの開拓に繋がったのか。1つの団体に注力していない、極一般的なプロレスファンと自認する私にしてみれば、確かに若い女性ファンが増えた辺りにそれを感じはしているが、プロレス全体で通してみて、これが"是"であったのかというと、疑問を禁じ得ない。武藤敬司の提唱する様な、夢のあるプロレスを提供し、それから新規にプロレスファンの開拓に繋げられるのかというのは、今もなおファンに与えられている、喫緊の課題である。
14時40分。会場である大阪府立体育会館に足を運んだ私。近くに最近、なんばパークスなる商業施設がオープンしているが、私は未だ足を運んではいない。それはさておき、矢張り若いファン、特に女性の姿はよく目に付く。昨年同様にコンビニエンスストアで前売りチケットを購入し、今回は2階指定席Bの一番最前列。よし、なかなか見易い位置関係だと喜んだのも束の間。眼鏡を忘れたことに気付き、愕然。余り眼が良くない私にとって、眼鏡があるのとないのとでは、見易さというものが、天と地の差とまでは行かないまでも、かなりの差が開いてしまうのである。
試合前のアナウンス。ケンドー・カシンの欠場が発表されていたが、今更彼のファイトを観たいという気持を持てない私にしてみれば、大したニュースではなかった。ファンの反応も小さいもの。
会場の入りは、どうしても鈍い。1階は割に早く埋まるが、2階の入りがどうしても鈍く、空席が目立つ。川田利明と天龍源一郎の一騎打ちはあるものの、タイトルマッチを除くアンダーカードの弱さというものが、仇なのだろうか。いや、新日本プロレスにしたってアンダーカードが物凄く充実しているというわけではないのに、差が目立つというのは、土地柄が矢張り影響しているのであろう。
色々試合に対する想いを巡らせながら、試合開始のゴングを待つ。そして15時。その時は来る……。
(第1試合)奥村茂雄・平井伸和・えべっさん VS 渕正信・石狩太一・くいしんぼう仮面 @ 30分1本勝負
平井伸和は最近、ミツ・ヒライ・ジュニアなるリングネームを名乗って戦っているそうだが、私は父親であるミツ・ヒライの試合を観たことがなく、彼がどういう試合を繰り広げていたのかというのを余り存知得ない。つい最近亡くなられたそうだが、息子がこれから一人前のレスラーで遣っていくのに、わざわざ父親のリングネームを持ち出すというのも余り感心しない。奥村茂雄も全日本を主戦場に戦って長いが、これといって大きな活躍がないまま、ぬるま湯と批判されながらのファイトを余儀なくされている。因みに今日、一緒にパートナーを組むえべっさんとは、大阪市内の同じトレーニングジムの門下生という共通項もある。
対する渕組。石狩を観るのも1年ぶりだが、余り体付きが大きくなっていない印象がある。まぁ、1年でそう体格面の強化を望むというのも酷かもしれないのだが。今日はくいしんぼう仮面とのメンバーで、大阪プロレスのお笑いテイストに満ちた戦いに臨む。
いざ、試合開始。大方が予想していた通り(?)、えべっさんとくいしんぼうとの大阪プロレス対決で始まる。大阪プロレスも観ている私にしてみれば、極普通のいつもの戦い。到って普段通り。ただ、会場がデルフィンアリーナと大阪府立体育会館とでは、聊か勝手が違うか。レフェリーの松井幸則をも混ぜた掛け合いは、反応がまちまち。
個人的にはこの試合で、全日本プロレスの懐の深さというか、融通の利くところを他の選手が見せて欲しいところだったが、どうにも感覚が違ったか。彼らにすれば「俺達はお笑いとは違うんだ」というのを見せたかったのであろうが、私にしてみればそれは余裕のなさにも映る。
さて、試合は終盤に石狩があわや奥村をピンフォールか、と思わせる一幕もあったが、結局最後に奥村がエクスプロイダーを石狩に決めておしまい。内容としては可もなく不可もなく、という感じだった(石狩がフォールしていれば結果は違っただろうが)。ただ、随所で観られた大阪プロレスの選手の戦い振りから、潜在能力を感じたファンも少なからずいたであろう。(第2試合)本間朋晃 VS 保坂秀樹 @ 30分1本勝負
第2試合。本間と保坂というと、どうしても矢張りインディーズでの試合というイメージを色濃く残してしまい勝ち。お互い全日本で結果を未だ出せていないだけに、今年は正念場なのだが。保坂の左肩の分厚いテーピングが、やけに目に付く。
試合開始。矢張り左肩が使えない保坂のこの日の戦いから、私が得られるものを探し出そうにも無理があった。対峙する本間の方も何処か気を遣っているような印象を私に与えていた感じであった。試合は忽ち本間がアームロックを決めて終了。盛り上がりも何もない第2試合。第2試合は割に盛り上がることが多いのだが、この日ははっきり言って大外れ。試合後に何やら彼らがマイクで遣り合っていたが、殆どファンの反応がないのが虚しかった。(第3試合)ザ・マスク・オブ・タイガー & タイガースマスク VS グラン浜田 & 土方隆司 @ 30分1本勝負
試合開始前に恒例のカラーボール投げ入れ。商品が割に豪華だったので期待していたが、ボールはやたら1階席にばかり投げられていた。あれではファンサービスとは言えるまい。さて、試合の方なのだが、往年のプロレスファンなら泣いて喜ぶ筈の、初代タイガーマスク。彼の戦い振りを、人気漫画に準えたファンも多いのだが、最近の彼の戦い振りを聞くにつけ、その美名を悉く台無しにしてしまう様な話ばかりである。躯が肥っていて満足いく動きが出来ないとか、よく蹌踉(よろ)めくとか…。今回のパートナーであるタイガースマスクは、大阪プロレスの期待の若手選手。ドロップキックの切れ味は出色のものがある。
対する浜田・土方組。こちらについてはそれほど説明するほどでもないが、試合振りは割に安定している評判だけに、期待は持てそうである。
試合が始まってみると、思ったよりも初代タイガーマスクの動きが良い印象である。土方とのバチバチにも狼狽えなく付き合い、圧倒する場面も。パートナーのタイガースマスクも、気後れすることなく普段から実践している戦いをやっている様に思えた。浜田も決してぐだぐだな戦い方はせず、年齢を感じさせないファイトで観客を盛り立てる。
風車式バックブリーカーをそつなくこなした初代タイガー。さて、浜田に対するフィニッシュにとコーナーポストに登るのだが……、
コーナーに上った途端に蹌踉めき!
嗚呼、何という世の流れの無常なのか。忽ちに私も抱いていた初代タイガーへの幻想は、古い家の如く脆くも崩れ去ってしまった…。なんとかダイビング・ヘッドバッドを決めたものの、焼け石に水。逆さ押さえ込みで浜田を押さえ込んで試合は終了したが、矢張り初代の終盤の動きに失笑が湧いていたのを思うにつけ、虚しさを募らせてしまう。
後ろの方でファンが「逆さ押さえ込みではあかんやろ」と話していたのを聞いていたが、フィニッシュがそれでは仕方ないのかも。(第4試合)ジ・イーグル & ショーン・ヘルナンデス & 宮本和志 & 河野真幸 VS "RO&D"(TAKAみちのく & ジャマール & ブキャナン & ディー・ロウ・ブラウン)@ 45分1本勝負
RO&Dのお出ましである。実はこの日の試合前、第8試合までカード発表がされていたのだが、突然この様な形にカード変更となった訳である。これに関連して、確かリングアナウンサー襲撃のアングルがあったと思うのだが、ちょっと想い出せない。まぁ、第8試合まで発表されていた時点で、ちょっと試合数が多いかな、という感想を聊か持ってはいたのだが。ジャマールの図体のでかさを観て、昔戦っていたサモア系の外国人レスラーを想い起こそうとしたが、かなり無理があった。とは言うものの、今となってはそれは大した問題ではないのかもしれない。
気になっていたのは、TAKAみちのくとジ・イーグル。TAKAみちのくは、別に所属選手という訳でもないのに関わらず、外国人レスラーの一集団を束ねてそのトップとして団体を盛り立てている点に於て、大きく評価されて然るべき人物である。WWF(現在のWWE)での経験が、今の武藤体制下の全日本に於て旨く働いているのかもしれないが、これは非常に特筆されるべきである。つい先日も、太陽ケアを引き入れ、軍団としての力は十二分に蓄えた感もある。一方、ジ・イーグルなのだが、今更何故このマスクマンを復活させたのであろうか。もう1つ意図を量りかねている。
さて、試合の方だが、無駄な動きが結構あったにも関わらず、体格差を活かしてRO&Dは攻勢を強めていく。宮本和志、河野真幸の両選手も抗うのだが、如何せん分が悪い。ヘルナンデスはぼちぼち、イーグルはいまいちという感じを抱く。結果もRO&Dが河野を圧殺して完勝といった内容であった。
此処でふと、ジャマールのトップロープからのフライング・ソーセージを目の当たりにして、先程の初代タイガーの終盤の戦いとを脳裏の天秤に掛けてみたが、体重差そのままにジャマールのインパクトが勝る。この時、初代タイガーに対する過剰な思い入れは、呆気なく潰(つい)えた。
圧勝する外国陣営に、成す術のない本隊。嘗てのプロレスの様式美というものを朧気ながら見せた、そんな感じの試合であった。蛇足ながら、試合後に宮本が突っかかっていくが、彼もまた、フライング・ソーセージの餌食に。
此処で休憩。ぶらぶらと会場内を散策するが、矢張り観客の入りはもうひとつふたつ、という感想は拭えなかった。それだけに、試合内容でどれだけ魅せられるのかが、課題なのではあるが、此処までの試合で、これといって特筆すべき内容というのがないだけに、残りの試合に託されるものは余計に大きくなる。
(第5試合:特別試合)太陽ケア VS 荒谷望誉 @ 60分1本勝負
待ちに待った太陽ケアの登場。怪我による長期離脱を経て、先頃RO&Dの一員として本隊に牙を剥く決意をしたケア。そうする以上は、試合を持って決意表明の代わりにしなければならないのだが。対する荒谷。「ぬるま湯」と形容されている、中堅選手の代表格になってしまっている現状。毎年正念場と言われているが、最早ファンの我慢の限界も超えつつある。例え、彼のこれまでの暗中模索を察していたとしても。
ケアは入場時から、RO&Dのテーマにのって、かつTシャツを纏って一員であることをアピール。荒谷は一時期から観ると大分痩せた感じだが、その分パワー面での低下を懸念してしまう。
さて、どれだけ魅せられるのかという問題に彼らはどういう解答を示してくれるのであろうかと考えながら、試合開始のゴングを聞く。
果たして、それはどうなのか。そういう疑問に、彼らは試合をもってファンに答えたのであろうか……。
残念ながら、それは出来なかった様に思える。復帰間もないケアの動きは鈍く、到底これで川田や武藤に抗おうなど、笑止千万と思われても仕方がないようであった。体付きも、Tシャツを脱がずに試合をしていたところから察するに、十分に戻りきっていなかったのではないのか。寧ろ、試合中流血しながらムーンサルトプレスを繰り出した荒谷の方が、懸命に戦っている印象さえ受けた。
試合に勝ちはしたものの、印象に残らない戦いになってしまったケア。躯を十分に戦えるレベルにまで戻さなくてはならないという、重たい課題を解決しないことには、この先RO&Dとして戦っていくには困難な様に思える。(第6試合:世界タッグ選手権試合)王者=武藤敬司 & 嵐 VS 挑戦者=小島聡 & カズ・ハヤシ @ 60分1本勝負
何か煮え切らない想いを抱いたまま、セミファイナルを迎える。昨年同様今年も、この時期大阪でダブルタイトルマッチが観られるということで、地元ファンにしてみれば嬉しいことなのだが、メンバー的に面白くなるか詰まらなくなるか、どっちにも転んでしまいそうな感じである。私自身、昨年の武藤の三冠戦が詰まらなく感じていたこともあって、尚のこと不安である。嵐は、申し訳ないがもうひとつ感情移入して応援するところまでいっていない。奮闘振りは評価されるべきであろうが、タッグばかりで終わって良いものではあるまい。
対する小島・ハヤシ組。ヘビーとジュニアのタッグで想い出されるのが、かの三澤光晴・小川良成組のタッグ。彼らもまた、このタッグ奪取により名タッグチームとしての地位を確立した。小島・ハヤシ組がこのことを意識しているかどうかは兎も角、此処でタッグ王座を獲得してタッグチームとしての地位を高めようと言う気持は有る筈である。先にコスケ・獅龍組としてアジアタッグの奪還に成功しており、この余勢を駆っての戦い振りが注目されるところ。
入場を眺める。小島の入場時の声援も大きかったが、矢張り一番声援を多く集める武藤の入場を見るに、オーラは未だ健在と言ったところなのだろうか。とはいえ、若い頃の武藤の輝き(頭の輝きのことではない)を目の当たりにした私にしてみれば、一種のもの悲しさというのを感じずにはいられない。観戦には無用なことだとは解っていても。
雑念振り払い、いざ、試合開始!! 序盤から攻勢を懸けていく王者組。
「お、かなり調子良いんじゃないか?」
単純な考えに走り勝ちの私は、直ぐこう考えてしまったのだが、よくよく考えてみると、もしかして余裕というものがなかったことの裏返しだったのではないのかと、後になって勘繰ってしまう。事実、試合終盤まで、殆ど王者ペースで試合が進み、度重なる武藤の足4の字固めやSTFに苦しめられるハヤシが、いつギブアップしても可笑しくない状況であった。それほど動きが良かったというわけではないが、要所要所で嵐も武藤を旨くフォローしていたように思える。その所為か、小島が殆ど試合をさせて貰えない状況の下で試合は進んでいき、このまま新年も武藤・嵐のタッグが君臨かと思われたが…。
武藤のコーナーからのシャイニングウィザードが不発に終わってからの大逆転! 小島と嵐の両者がリング上に残る展開となり、最後の最後で小島のぶん殴りラリアートが嵐の喉元深く炸裂! カウント3!
遂に新しい世界タッグ王者の誕生の瞬間(とき)が訪れたのであった。どんなに劣勢に置かれても最後の最後まで諦めることなく、少ないチャンスをものにした彼らのファイトは、今年初観戦の私に少なからずの元気を与えてくれた。そして小島のフィニッシュの裏には、ハヤシの粘りというものがあったということを決して忘れては行けない。
今想えば、武藤のシャイニングウィザードが結果的には仇になってしまったような気もする。あれだけ試合中に濫発していればブロックされるのも当然なのかもしれないが、それ以上に違う技を繰り出せない今の武藤の限界を、もしかすると表していたのかもしれない。そして、嵐。今回の敗戦は間違いなく今後の重荷になってしまうのは間違いないと思う。
かくして、王者交代劇の幕は、此処に閉じられた。これからの小島・ハヤシ組の戦い振り如何では、嘗ての三澤・小川組の様にもしかするとなれるのかもしれない。おめでとう、小島聡、カズ・ハヤシの両選手。良い試合をありがとう。
(第7試合:三冠ヘビー級選手権試合)王者=川田利明 VS 挑戦者=天龍源一郎 @ 60分1本勝負
さて、いよいよ三冠戦である。これまで随分長いこと待たされた感じであったが、漸く川田の天龍に対するリヴェンジの時がやってきた。王者として天龍を迎え撃つ川田。分裂直後の三冠戦で川田が天龍に敗れて以来、何度も天龍が再戦をアピールするかの様な行動を執ってきたが、ずるずると時間だけが過ぎていき、いつしか天龍は他の団体をメインに戦うようになる。やっとのことで出来上がった舞台。此処で最後の一花をという天龍の意気込みは、少なからぬものがあろう。
現三冠ヘビー級王者、川田利明。先のZERO-ONEでの小川直也との一騎打ちで圧倒し、ハッスル1でのマーク・コールマン戦勝利は記憶にも新しいところ。思えば9年前、あの阪神・淡路大震災直後の大阪府立体育会館での三冠戦。あの時の王者もそう、川田だった。チャリティ興行となった三冠戦で当時の小橋健太とフルタイムドローの死闘を展開し、震災でぐちゃぐちゃに崩れ落ちた地元の全日本プロレスファンに、多くの勇気を与えてくれた。そう、この府立体育会館は想い出の場所でもあるのだ。あの時観戦していたファンが果たして今日の試合を観に訪れたのか、私には解らない。だが、今一度彼のファイトを観て、あの頃を想い返そうとするファンも、きっといるのだろう。
両者入場。"Thunder Storm"の旋律に乗って天龍が現れる。でかい幟(のぼり)が数多く登場するお馴染みのシーン。遠目から彼の状況を深く伺い知ることは容易ではないが、まぁ、三冠戦を遣る以上、決意のほどは確かなんだろうなと、今一度自分に問いかける。
そして、"Holy War"の旋律に乗って王者の川田が登場! 場内のヴォルテージは忽ち最高潮に! この時を待っていたかの様に、選手コールの時の黄色い紙テープがリング上で絨毯の如く敷き詰められた。
「良い試合を魅せてくれよ……」
きっと、私だけじゃない。会場にいるファンも、恐らく同じ気持を抱いていたに違いない。いざ、ゴングが鳴って試合開始!!
序盤、矢張り静かな立ち上がりの両者。だが、これで終わらないのがこの2人。忽ち両者の激しい打撃戦に! 互いに打ち放たれるチョップの響きが、場内に響き渡る。今年54歳になる天龍も、年齢とは大きく相違した重厚なチョップを放ち、圧倒する場面も。時々椅子を投げ込む場面もあったが、これはレフェリーの和田京平に阻まれる。とはいえ、耐久力の凄さには、舌を巻かされる想いである。
だが、これに負けてはいられないのが現在の川田である。コーナーに天龍を追い詰めると、チョップとグーパンチの乱れ打ち! 嘗て分裂直後に川田が口にしていた「痛みが伝わるプロレス」というものを、今一度ファンに想い起こさせようという彼の心意気なのか。これでもかこれでもかと乱打する川田。だが、これで終わらないのがミスタープロレス・天龍源一郎であった。
これまでの彼の戦い振りをプレイバックするかの如く、スパイダー・ジャーマンを川田に放つ。そして、川田の右膝に集中して痛め付け! 忽ち川田の動きが鈍る。一気に天龍はパワーボムなど攻勢を懸けるが、なんとか川田は2カウントで跳ね返す!
そして、開始から10分過ぎだろうか。天龍の動きが何処かしら鈍くなる。川田にバックドロップを放つが、カウント2。そして、お返しとばかりにデンジャラス・バックドロップを天龍に!! さらにこれでもかとストレッチプラムで締め上げ、じわじわと天龍のスタミナを奪っていく。そして、垂直落下式ブレーンバスターを放つと……、
なんとこれでカウント3。ちょっと呆気なく映った結末であった。今までの天龍であるなら、間違いなく返していたに違いない。だが、何故に今回この結末に到ったのか。
天龍は嘗て、「川田のパワーボムで頭が真っ白になれば幸せだ」と、話していたことがあった。これは、恐らく天龍自身が川田のパワーボムでフォールされ、それで自分のレスラー人生に幕を下ろそうという気持だったのではないだろうか。阿修羅原に対して自分がやった様に、彼もまた、そういう気持を持っていても不思議ではないからである。
だが、パワーボムでの決着ではなく、ブレーンバスターという或る意味意外な結末であったが為に、私の頭の中では、この試合がファンに対して大きなインパクトを果たして残せるのかという疑問がどうしても湧いてしまう。一応、川田の今ある姿を大いに受け止めてはいるものの、天龍自身、未だ引っかかっているのであろうか。そして、天龍に介錯する立場であろう川田の方も、これが、果たして納得いく結末であったろうか。
今回の三冠戦。確かに見た目では川田は天龍に対してリヴェンジを果たしたかの様に見える。だが、本来ファンが望んでいた様な決着にならなかった段階で、この目的は恐らく未だ果たせていないのではないかと、私の小さなおつむの中で暫し考えてみた。
そして、家に帰って又振り返る。そう、真のリヴェンジは未だ終わっていない、と。ただ、年齢的にそれを果たせる時間は、もう残されていない筈である。又一度、再戦を望みたいところである。
缶コーヒーを買わなかった代わりに、カフェオレを飲もうかと家にある牛乳とコーヒーとを混ぜてみる。だが、出来上がったものは、何処か中途半端な感じの味であった。(観戦記終わり)