ノア 2003年4月10日(木)
大阪府立体育会館第二競技場大会観戦記 |
投稿者:金山政史さん
観衆:1600人
「参ったなぁ……。鼻血がなかなか止まらないや」
プロレス観戦しようと想っていた矢先に、鼻血が止まらない体調。それでも、私は自転車で上町台地の急坂を上り下りし、大阪府立体育会館へと赴く。時は午後3時。
「折角、新入りの顔が観られるというのに、休む訳にはいかないのよね!」
無理もない。今回のこの大阪での試合に、普段余り目にすることのない選手が出てくるとあって、何とか観に行きたいという気持が非常に強いこともあり、それが、観戦への推進力となっていたのである。秋山準と高山善廣との対決というのも、又興味をそそられる。
暫く会場の側の漫画喫茶で時間を潰し、午後5時40分過ぎに会場入り。それにしても、
「やばいなぁ……。観戦中に鼻血でも出したらどうしようか」
そういう気持がどうしても先に立ってしまうほど、此処数日の体調が勝れない。いや、きっとそんな体調など、試合を観たら吹っ飛ぶだろう。そう信じての会場入り。
試合前の食堂前。ふと一瞥すると鈴木鼓太郎が女性ファン数名からサインをねだられ、それに対して決して厭(いや)がる素振りも見せずにきちんと応対する。そして記念写真に収まる。
「矢張り、こういう風景というのは、良いもんだな……」
いつもの指定席に陣取る私。指定席とはいえ立見だが、この場所は非常に気に入っている場所。観易いこともある上、直ぐ側を選手が観戦しているからである。
ふと横に、御婦人が一人。
「綺麗な人だなぁ……」
だが、生来の臆病さが、声を掛けることにストップをかけてしまい、私の"第0試合"は、呆気なく終わってしまった……。
「いかんいかん! 試合を観ることに集中しないと!」
こうして、この日の観戦の幕は、開くのであった……。
(第1試合)マイケル・モデスト & ドノヴァン・モーガン VS 百田光雄 & 青柳政司 @ 20分1本勝負
第1試合に人気外人タッグのエクセレントインク。此処最近は新たなる外人集団「KAOS」を立ち上げ、上位喰い込みを図っている。青柳はこの日本来メイン登場予定だったが、カード変更のあおりを受け、この試合に。
第1試合と言えば、元々通称"ファミ悪"マッチの行われる場所。この位置に置かれて、腐ってないかどうか、老婆心ながら考えてみる。それにしても、ラッシャーと永源が出ない第1試合というのは、幾ばくかの違和感というものを感じさせてならない。
「エクセレントインクがこの位置か……。面白い試合になるかも知れないけど、何処かやるせないよなぁ。遣る気を殺がれなければ良いのだが……」
心配しつつも、面白さを期待して観戦を始めた。
ゴング前から奇襲を仕掛ける、エクセレントインク。そして青柳の足に集中して攻め立てる。第1試合というポジションにも構いなく、モデストは観客のハートを掴んでいく。
「案外、悪くないもんだな……」
途中でモデストが見せた鶴のポーズ。2度披露したが、矢張りこういう細かい笑いというものを取るのが、モデストという人間は巧い。つくづくそう感じさせる。
エプロンの相手に向かって、ロープ越しに腕を殺していくエクセレントインク。途中でいつの間にか入れ替り、それが同士討ち(モデストがモーガンにか、モーガンがモデストにか、その子細は失念してしまったが)となる情景。恰も、大阪プロレスを観ているかの情景。そう、このムーブは所謂「くいえべ」対決でよく見掛けるものである。
この第1試合、エクセレントインクの両者が腐ることなく自分たちのレスリングをしていたことには感心したが、一方で青柳が振るわなかった印象。百田が張り切っているだけに余計にそう感じるのだが、この日は特別振るわなかった。
最後はモデストが百田をリアリティチェックで仕留めてお仕舞い。
「いつもなら、ラッシャーさんのマイクが、此処で聞けるんだけどな……」
試合はまずまず面白く、場内も程良く暖まったが、何処か、空虚感というものも感じずに入られない。何故なのか。そう、その場所にあの2人が居合わせていなかったから。
ラッシャー木村。永源遙。
おもしろうて何処か悲しき初試合、と、下らない句を詠む。
一刻も早い回復を祈るしか、今は出来ない。
(第2試合)スコーピオ & ビニー・バレンチノ VS 森嶋猛 & 丸藤正道 @ 30分1本勝負
本来外人勢の副将格たるスコーピオ。だが、大将格のベイダーのいない現在、エクセレントインク共々「KAOS」を立ち上げ、上位進出を狙うのだが……。パートナーのバレンチノという選手が如何ほどのものか、それも気に掛かる。一見すると、少し細めだが……。
スコーピオのいつもの入場&ダンスに対して、ポージングしながらも何処か遣る気なさげなバレンチノ。少しくすくすときてしまった(笑)。
一方の新ユニット、「力丸猛」のうちの2名。森嶋と丸藤。丸藤の入場というものには、個人的にいつも冷や冷やさせられるのだが(膝を以前負傷していただけに)、それでも矢張り絵になる。そして森嶋。この4人の中では体格面で圧倒的存在、正確に言うなら、威容というものをもっている。
先発は丸藤とスコーピオ。互いに握手を交わす。この両者に期待するのは矢張りスピード感溢れるムーブメント。そう、その期待に違わず、この両者は素晴らしいムーブを繰り広げた。腕の取り合いを主軸としたこの一連のムーブは、観衆を虜にするには手っ取り早い手段。場内の盛り上がりは凄まじいものがある。
一方、森嶋とバレンチノ。体格差が矢張り際立つが、それでも奮闘するバレンチノ。何度もやばいと想われながらもカウント2で返す底力というものは、十分に今後に期待を抱かせるだけのものはある。攻撃面での錬磨は、望まなければならないが、この日の試合を観る限り、観客に対しての自己アピール(パフォーマンスを抜きにしての、自分のレスラーとしての存在)というものはできたのではなかろうか。
目まぐるしい展開から、丸藤がスコーピオに不知火をジャストヒット。そして森嶋がバレンチノに対してえぐい角度のバックドロップを決め、フィニッシュ。
試合後はお互い握手で締め括った。そして、奮闘したバレンチノに対して大きな拍手。うん。良い感じ。
(第3試合)力皇猛 VS ブル・シュミット @ 30分1本勝負
久々シュミット。対する力皇。相変わらず細めのシュミット。そして、NWFに向け気合い満々の力皇。果たしてその試合の結末は……。
序盤から積極果敢に攻め立てるシュミット。ドロップキックも綺麗に決めるが、力皇はびくともしない。
5分ほどシュミットの攻撃が続いた後、力皇の反撃! そして、ショートレンジのラリアート炸裂!
「返してくれよ、シュミットちゃん……(苦笑)」
だが、この1発であえなく轟沈……。そして暫く起きあがれないシュミット……。
このままで良いのかシュミット……。確かに力皇は力強かったが、それに抗ってこその上位進出なのに……。(第4試合)トム・ハワード & スティーブ・コリノ VS 池田大輔 & 杉浦貴 @ 30分1本勝負
幾ばくの休憩を挟んでの第4試合。待ってましたよゼロワン勢。これが個人的に一番観たいカード。どれだけのアピールというものを観衆に見せられるのか。ゼロワンに関していえばこの1点ではなかろうか。私の後方から三沢も見つめている。彼の査定たるや如何に……。それにしても、対戦相手の杉浦のアイマスク。出来損ないのシャア・アズナブルを観ているかの様子(笑)。試合中も付けたままだったが。
先発は、コリノと杉浦。いきなりコリノがおちょくった様な仕種で、対戦相手をからかう。
コリノ:「ゼロワン、イチバーン!」
細かいところで観衆をおちょくるコリノ。それに対しての観衆のブーイング、そしてコリノが再度おちょくり(笑)。そして、奇声を一発(爆)。対戦する側も、なかなか集中できないだろうな。矢っ張り。
杉浦:「うるせぇ、こら!」
さて、お笑いの方ばかりが注目されがちなコリノ。本来の戦いの方はどうだろうか。
矢張りトリッキーな動きは見せるが、その一方で的確な攻撃も見せる。うむ、期待を裏切らない良い選手であることは、間違いないな。
一方ハワード。嘗て「真撃」で一度観たことがあるが、レスラーとしての評価もなかなかと言うことで、こちらも期待して観てみる。
ハワードの蹴りが、要所要所で杉浦の顔面にヒット。その的確さと威力は、本当に素晴らしいものがある。トリッキーさが上位にくるコリノとは対照的に、こちらは真剣さが表面に出てくる印象。匍匐(ほふく)前進は観衆に大受けだったが(笑)。こういうタッグもまた、面白みを感じさせる。
池田と杉浦も負けじと、ラリアート、スピアー等で反撃するが、タッグとしての力量は相手の方が上手だったのか。要所で凶器攻撃(巻いていたテーピングを剥がして、池田の頸を締め上げたのだが)、も見せるコリノや、的確なキックを決めるハワードに、ひょっとすると何処かペースを狂わされたのかもしれない。結局最後は分断され、ゼロワン外人タッグの合体技の前に杉浦が轟沈。
勝ったゼロワン勢は意気揚々。その一方で収まりのつかない池田が、コリノを逆にテープで締め上げる。新たなる火種か……。
個人的には、この試合で十分にアピールは出来ていると観るが。
(第5試合)田上明 & 井上雅央 & 菊地毅 VS 三沢光晴 & 小川良成 & 鈴木鼓太郎 @ 30分1本勝負
結論からいえば、この試合、この日で一番試合時間が長かったが、一番退屈な試合だった(苦笑)。鈴木の動きは相変わらず素晴らしく、また菊地が気合い十分のファイトを見せていた(三沢との睨み合いは凄かった)が、見所はこれくらい。
特に気になったのが、田上の動きがかなり鈍く見えたこと。体調が悪いのかなんなのか、攻撃面でも精彩を欠いていた様子。井上は観衆の受けが相変わらず悪い(動き自体は悪くないけれども)が、矢張りこの辺に、ファンと選手との間で望んでいるスタイルに対する懸隔、或いは齟齬(そご。食い違うこと)というものを露骨に感じてしまう。かといって、「要らない」という言葉で片づけるのも、なにかしらの責任放棄になってしまいそうで、個人的にはそうはしたくないが。
試合は最後に、小川が菊地をバックドロップ・ホールドで仕留めるが、矢張り冗漫さは否めず……。そしてまたしても試合後にKAOSが乱入し、三沢組を襲う。
そんな混乱の中で、三沢がスコーピオに対してタイガードライバーを決めるが、試合よりも試合後の方が動きが良くてどうするのか(苦笑)。小川もまた、然りだが。
兎に角、個人的には、この試合は菊地と鈴木に救われた感が強い。田上のまったりした感じで偶に爆発というのは、決して嫌いではないが、余りにも動きが悪いと観る側にとっても何処か寂しく想える。
(第6試合)小橋建太 & KENTA VS 本田多聞 & 橋誠 @ 45分1本勝負
所謂、「GHC前哨戦」といった趣のカード。小橋と多聞の絡みに注目。KENTAの分厚いテーピングが気に掛かるのだが……。それから、初めて「BLAZIN」を耳にすることが出来たが、個人的には気に入っている。後は矢張り「慣れ」であろう。
いざ、試合開始! 先発はその多聞と小橋の両者。早々に多聞、いきなり小橋をバックドロップ!! そして得意のグラウンドへ! こうなると多聞の力は存分に発揮される。その形相たるや、まさしく秋山の言った「修羅」そのもの。堪らずKENTAがカットに。
舞台は場外戦へ、小橋のローリング式袈裟斬りチョップが空振りし、鉄柱に! これで小橋が右腕を傷めた様子。試合中に、アイシングスプレーを吹き付けられる小橋の姿が、印象に強く残る。
これ千載一遇とばかりに、多聞はひたすら小橋をターゲットにして攻めまくる! 肩固めががっしりと小橋を捉える。KENTAが堪らずカットに入るスピードが、多聞の攻撃の凄さの証左である。デッド・エンドもばっちり。
一方でのKENTAと橋の攻防。お互いに気合いの入った攻防を繰り広げるが、こちらはKENTAの負傷が矢張りファイト全体に影響を及ぼしているのか、ちょっと落ちるかな、という感じ。それでも蹴りはしっかりとしている。橋も負けていないが、小橋と多聞の攻防の凄さに、矢張り掻き消されてしまった感じが強い。それだけ、この両者の印象というものが強いということなのだが。
終盤、KENTAにがっしりとタモンズ・シューターを決める多聞。そこにカットに入った小橋が、力強いハーフネルソン・スープレクス!!!! そして、小橋と橋の攻防に移り、小橋が傷めている右腕で鋭い逆水平! そして剛腕ラリアートを決め、カウント3。
小橋と多聞、前哨戦は小橋の勝利と相成ったが、多聞も決して負けてはいない。中身の濃い一戦。試合時間はこの日の内で2番目に短かったが、この日のベストバウトと言っていいだろう。
「凄い……」
興奮の余りに、鼻血の出るのを心配していたが、それは杞憂に終わった。
(第7試合)高山善廣 & 佐野巧真 & 川畑輝鎮 VS 秋山準 & 泉田純 & 金丸義信 @ 45分1本勝負
いよいよ、メイン。秋山準と高山善廣とが絡むのも、相当久し振り。このカードをじっくり観る限り、矢張りこの絡みというのがどうしても全面に出てくるのは已むを得ないだろう。後のメンバーが、どれだけ自分というものを出せるかが、この試合では重要。
その秋山と高山の直接の攻防は合計2回。矢張り、ダイナミックさでは他のメンバーを遙かに凌駕する。強烈に攻め立てる高山。盛り返す秋山。エクスプロイダーと膝とが激しく交錯する攻防。これぞ、トップレスラー達のなせる立ち振る舞い、と言えるもの。
シングルマッチを希求して已まない。そんな気持を更に強めるこの日であった。
そんな中で他のメンバーも埋没してはいられない。佐野のロメロや足4の字、泉田のヘッドバット、金丸のトリッキーなファイト、そしてメインには珍しい川畑も、懸命なファイトで温かい声援を受ける。個人的には、秋山と川畑の「専修大学先輩後輩対決」という側面も期待して観ていたが、これは1回切り。それでもなかなか愉しめた。
泉田もこの日は、メインで戦うということもあってかなり気合いの籠ったファイトをしていた様に想えた。高山を吹っ飛ばした辺り、その気合いは凄いもの。これが持続できれば、攻撃力は及第点なのに、普段の戦い振りが勿体なく感じてならない。
最後は泉田が川畑を鋭いラリアートで吹っ飛ばして、試合終了。しかし、この日は秋山と高山の攻防に喰われまいと、真剣に戦い抜いた他のメンバーに対しても称讃を送るべきだろう。
「これで、良いんだ……」
この日の戦い振りを忘れずに選手達が普段を戦えば、活性化は自ずと促される筈。要は気持一つ、と。
そう心の底で呟きながら、会場を出る。
(第7試合)高山善廣 & 佐野巧真 & 川畑輝鎮 VS 秋山準 & 泉田純 & 金丸義信 @ 45分1本勝負
いよいよ、メイン。秋山準と高山善廣とが絡むのも、相当久し振り。このカードをじっくり観る限り、矢張りこの絡みというのがどうしても全面に出てくるのは已むを得ないだろう。後のメンバーが、どれだけ自分というものを出せるかが、この試合では重要。
その秋山と高山の直接の攻防は合計2回。矢張り、ダイナミックさでは他のメンバーを遙かに凌駕する。強烈に攻め立てる高山。盛り返す秋山。エクスプロイダーと膝とが激しく交錯する攻防。これぞ、トップレスラー達のなせる立ち振る舞い、と言えるもの。
シングルマッチを希求して已まない。そんな気持を更に強めるこの日であった。
そんな中で他のメンバーも埋没してはいられない。佐野のロメロや足4の字、泉田のヘッドバット、金丸のトリッキーなファイト、そしてメインには珍しい川畑も、懸命なファイトで温かい声援を受ける。個人的には、秋山と川畑の「専修大学先輩後輩対決」という側面も期待して観ていたが、これは1回切り。それでもなかなか愉しめた。
泉田もこの日は、メインで戦うということもあってかなり気合いの籠ったファイトをしていた様に想えた。高山を吹っ飛ばした辺り、その気合いは凄いもの。これが持続できれば、攻撃力は及第点なのに、普段の戦い振りが勿体なく感じてならない。
最後は泉田が川畑を鋭いラリアートで吹っ飛ばして、試合終了。しかし、この日は秋山と高山の攻防に喰われまいと、真剣に戦い抜いた他のメンバーに対しても称讃を送るべきだろう。
「これで、良いんだ……」
この日の戦い振りを忘れずに選手達が普段を戦えば、活性化は自ずと促される筈。要は気持一つ、と。
そう心の底で呟きながら、会場を出る。
会場を出て暫く、夜風に吹かれる私。
「ふぅ、最近辛いことばっかり続いていたからなぁ。でも、小橋と多聞の試合観ていたら、ちょっとは気持も晴れたかもな」
無理もない。体調を崩し、しかも此処最近多忙な状況であった私。気持も沈み、いっそのこと、何処かに旅に出ようか、とまで考える様にまでなっていた。
そんな気持を、幾分かこの日の試合が和らげたのであろうか。何処か表情が穏やかに映っていた。
「さて、いつもの様に、コーヒー飲みながら帰るとするか……」
自動販売機に。そして硬貨を投入……。しかし、何時まで経ってもお金が投入されない!
「……参ったなぁ」
仕方なく、このまま家路につく私。家に着いてから、インスタントコーヒーをミルクに混ぜて飲み干す。
「……何か矢っ張り違和感感じるなぁ」
そういう想いに駆られながら、パソコンの画面に向かう私。何とか自分というものをリフレッシュ出来る手段はないものかと、今日もラジオを耳にしながらキーボードを叩く私。(観戦記終わり)