ノア 2003年2月21日(金)
大阪府立体育会館第二競技場大会観戦記


投稿者:金山政史さん

観衆:1800人


この日の興行、本当だったら、3人で観られる筈だったのだが……。時間の猶予とは斯くも非情なるものなのか。互いの時間の折り合いがつかず、この日も孤独に、私は大阪府立体育会館へと赴く。

午後5時頃に、体育会館前に辿り着く。当日の立見券を購入後、側の定食屋で早めの夕食。その後漫画喫茶で幾ばくかの時間をやり過ごし、10分前に会場入り。

先の神戸大会の評判が今ひとつだった所為から客入りが心配されたが、それほど悪いという印象は抱かず。じわじわと客が入るのは、興行の常であるから。

今回の観戦のテーマはもう確定している。共闘表明した力皇・丸藤両選手の戦い振りと、それに伴う森嶋の行動がどう出るのか、批判の絶えない中堅選手の奮起は見込めるのか。

中でも力皇は高山のNWFベルトに挑戦表明していることもあり、その動向も注目される。

それでは、観戦記へ……。

(第1試合)百田光雄 VS 永源遙 @ 15分1本勝負

最近、このカードが第1試合に組まれることも多くなっている。ファミ悪対決という側面ばかりが表に出勝ちだが、お互いキャリアの長い選手同士。初戦故の基本的な攻防が愉しめる筈。

それでも矢張り、このカードにはあの人の存在を忘れてはならないだろう。そう、ラッシャー木村。試合欠場の代わりに、マネージャーとして、試合に臨む。

この日の観客の中に、結構愉しい野次を飛ばす客が居た。いい歳したおじさんなのか、若い人間なのかは定かではないが。この件の客、永源に向かって「オー!」コールを掛ける。すると永源、なんとコーナーポストに上り、

「オー!」

これに場内が大いに笑いに包まれる。掴みはOKといったところか。どう頑張ってもジャンボ鶴田にはなれないのだが、その意気や良し。

しかしいざ試合になると、矢張りお互い地味な攻防に。それでもお決まりの永源の唾攻撃はキッチリ披露。客席のみならず、"マネージャー"のラッシャー木村やレフィリーのマイティ井上にまで噛ませるサービス精神(笑)。掛けられた両者は流石に困り果てた様子。

この日の永源。とにかくよくコーナーに上る。無理を承知で、場外に落ちた百田に向かって、

「トペをやれ!」

という野次も飛ぶのだが、矢張り出来る筈もなく、そのまま降りることに。その後ジャイアントスイングをキッチリ披露。この日は19回転半。

最後は永源が百田を逆さ押さえ込みに仕留めてフィニッシュ。このあとのマイクの遣り取り。

永源:「木村! ………」

木村:「永源……。折角だから、何か喋りなさい!」

矢張り、木村のマイクは必需品のようで(笑)。場内も大いに沸く。

木村:「みなさん、こんばんわ。花粉症にはくれぐれも気を付けましょう」

金網の鬼も、花粉症には勝てない御様子で(笑)。その後、道頓堀川浄化運動に関してのコメントも木村の口から発せられた。こういう細かいPRも、あっていいものである。

(第2試合)佐野巧真 & 川畑輝鎮 VS 菊地毅 & スーパースター・スティーブ @ 20分1本勝負

カードだけ一瞥すると、そう面白くもなさげなカードに映るが、4者とも、キッチリと役目を果たした感じがする。スティーブがかなり大きく見えている。川畑との基本的ムーブがあったのだが、スティーブの体つきが大きく映るのである。ただ、もうちょっと下半身が大きくなってくれると格好も付くのだが、それはロングタイツの所為か。

その件のスティーブ、試合を通して動きが良い。コーナーにいる間も、戦っている菊地に向かって頻りに檄を飛ばす。その心意気や良し。

菊地が兎に角エルボーを打ちまくる。佐野もまた、意地を張り合ってローリングソバットを綺麗に披露。現状のポジションに止まる佐野は、少なくともこの日のソバットの切れを観る限りでは、勿体なく映る。スティーブに決めたフルネルソン・スープレクスの切れ味。
矢張り、勿体ない。

これが決め手になったのか、最後は佐野がスティーブを仕留めて終了。しかし、試合全体を通して、スティーブの動きの良さは、観ていて唸らせるものがあった。もう駄目だと思われつつも気迫でカウントを返すスティーブ。観客も感化されたのか、盛大な声援を彼に送っていたのが印象的。試合終了後も、彼を拍手で讃えていたのが、今後の期待というものの裏付けになっているのは、疑いないところだろう。

(第3試合)金丸義信 VS マイケル・モデスト @ 20分1本勝負

GHCJr.王者金丸に実力者モデストが挑む、贅沢な20分1本勝負。しかしなんと、金丸に対する声援の少ないことか。確かにモデストの人気は凄いものがあるが、それでも金丸は王者である。戦い振りが応援する気を殺ぐ原因なのかもしれないが、どこか寂しい感じも受ける。

序盤から積極的にモデストが攻める。王者にしてみれば、受けて立っている気持なのかもしれないが、どうも弱々しく映るのは、体格面の弊害なのか。しかし、モデストコールの大きいおじさん。それよりも前の、金丸に対する黄色い声援が霞んでしまいそうである。

モデストのリング上での振る舞いに、何処か余裕すら感じられるのだが、そこを旨く金丸はDDTから場外に落としての鉄柵攻撃に打開策を見出す。それからしぶとくスリーパーで締め上げていくが、チョークを指摘される。

それでも金丸は、エプロンを利したギロチンや、ディープインパクトでモデストを追い込んでいくが、決め手には到らず。残り時間が僅かになり最後は押さえ込みで互いに勝利を窺うが、結局タイムアウト。試合全体を通しては、モデストの方が矢張り押していた印象。
個人的には、もう少し、金丸に対して王者らしい試合を期待したかったところだが。後ろが詰まっている現状、敢えて苦言を呈したい。

「今のままでは、防衛は一筋縄ではいかないぞ」

と。

改めて実感するモデスト人気。試合終了後も通路でモデストスマイルを披露する度に観客が沸く辺り、それを伺い知ることが出来よう。

此処まで観る辺り、つくづく同輩が観られないことを残念に思う私。その輩は普段からノアのプロレスに対して辛口なのだが、此処まで観る限り、その輩も満足できるものではなかろうか。そう思いつつ、休憩時間に自動販売機へと駆けつける。

すると、なんと三沢光晴とニアミス。思い切ってサインでも頼めば良かったのかもしれないが、普段から臆病者で通っている私。なんとも恥ずかしい限り。

(第4試合)秋山準 & 齋藤彰俊 & 橋誠 VS 森嶋猛 & 泉田純 & 井上雅央 @ 30分1本勝負

スターネス勢が第4試合で、批判の矢面に立つ中堅タッグと激突というのも、それはそれで良いのかも。現状の中堅同士で下手な試合をやらかすよりは、遙かに効果が高い筈。森嶋を交えての中堅タッグ。矢張りこのカードが旨く作用したようである。井上がロングタイツに替わっていたが、遠目には川畑みたいに映る。だが、その心意気は買うべきであろう。武道館では高山とのシングルも控えていることであるから(批判の多いのはさておいて)。

試合を通しては、序盤橋がやたら長く戦っていた感じ。途中で泉田との頭突き合戦をおっぱじめるが、なかなかこれが愉快(笑)。橋が泉田に対して頭突きをやっても、泉田が大相撲譲りの石頭を橋に喰らわすと、その橋の苦しい表情。仕返ししてもなんと頭突きを遣った橋の方が苦しむというのは、珍妙である。この頭突き合戦、リング外でもマイクを通して行われる(笑)。こういう愉しい戦いだと、泉田も映えるのだろうか。だが、この試合全体をを通して、6者かなり激しい攻防が戦われていたのは確かである。中堅どころが真剣な戦いを見せてくれれば、自然と活性化も果たせるのだから。

井上もまた、この日は積極的。最初の方でこそ、「攻めろ!」という野次も飛んでいたが、この日はかなり積極的に動いていた感じ。真剣なファイトをしていれば、観客も乗ってくる。

「よっしゃ、担ぐぞ!」

で観衆が沸く辺り、まだまだ棄てたもんじゃないな、と雑感。

でも、矢っ張り秋山は千両役者である。ジャンピングニー一つとっても、観客の沸き方が違うのだから、流石といったところか。出番は少な目だったが。

最後は森嶋が橋をバックドロップに仕留めて終了。中堅に重点を置いて観戦したせいか、やや書き方が偏ったのかもしれない。だが、この日のファイトを観る限り、かなり良い戦い振りを披露していたことは、間違いのないところである。場内が白けた雰囲気に一度もならなかったのが、その証左であろうか。欠伸の猶予すらないその雰囲気が、観る側にとっては何よりも心地良いものである。

(第5試合)小橋建太 & 本田多聞 & KENTA VS 田上明 & 池田大輔 & 青柳政司 @ 30分1本勝負

バーニングに多聞が混じったタッグ。最近頗る多聞が張り切っている。秋山をして「修羅の顔」と言わしめた辺り、その充実振りは伺い知れよう。KENTAと館長との戦い振りも、面白い。

KENTAと青柳館長。この両者で先発。序盤から激しく蹴り合う2人。館長相変わらず元気のいいこと(笑)。結構良いカードだけに、張り合いもあるんだろうか。館長とKENTAの絡みは兎に角多かったが、激しいことこの上なし。異質かもしれないが、こういうのもまた観ていて愉しいものである。KENTAも館長も、動きは格別。

他方、多聞と池田である。最初でこそ多聞はじっくりとした立ち上がりを見せるが、やがて修羅の顔を覗かせる。観ていて、凄みが備わっている感じが、今の多聞にはあるのかも。タモンズ・シューター一つとっても、気迫のあるのとないのとでは、差が歴然なのだから。

場外で池田をフロントスリーパーに固める多聞。気迫が観客席に伝わる。揉み合ううちに観客席に雪崩れ込む2人。それでも互いに鬩ぎ合う。気迫は即ち観客の声援に繋がる。場内の盛り上がりも凄まじい。

小橋と田上の絡み。田上は小橋と対戦すると何かしら元気に映るのは何故なのだろうか(笑)。小橋も同期故のライバル心を持って田上に接する。青春三倍速で赤く腫れた田上の胸。その音の凄まじさといい、矢張り小橋畏るべし。館長をチョップ1発で倒してしまう小橋。その激しさがあってこそ、周りも乗って行き易い。

終盤KENTAが攻め込まれて、最後は池田のキン肉バスター→ラリアートでフィニッシュ。

此処まで観ていて、始めは明るく愉しく、終盤は激しいプロレス。何か全日本の嘗てのスローガンがこっちに移ったような、そういう印象を抱いてしまいそうである。その激しさは、小橋が矢張り引き寄せたのであろうか。

(第6試合)高山善廣 & 杉浦貴 VS 力皇猛 & 丸藤正道 @ 45分1本勝負

さて、セミファイナル。力皇が此処に来て、高山の持つNWFベルトに挑戦を表明。その絡みで、カード変更まで到る。共闘の丸藤共々、その心意気や良し。

試合前の力皇がマイクパフォーマンス。

力皇:「おい高山! (NWFの)ベルトはどうした!」

高山は無言。この辺りからして、高山の心理作戦は始まっているとみて良いのであろうか。その力皇、初っぱなから高山を激しく意識する。睨み合い、打撃応酬。打撃から力皇の激しいぶちかまし。この辺り、気迫面では高山を凌駕しているとみても良いかもしれない。
丸藤も加勢して、高山に食ってかかっていく。だが、丸藤の場合、矢張り体重差というものがあるからか。高山に軽くあしらわれてしまう。

丸藤と杉浦の絡みでは、この日観る限りでは杉浦の方が優勢だったように思える。良いタイミングで放たれるスピアーといい、杉浦の動きは実に良い。丸藤も運動神経の良さを随所に覗かせたものの、矢張り高山との攻防で押されてしまったからか、攻めあぐねていた感じを受けた。不知火が不発に終わった辺りに。

フィニッシュは丸藤が杉浦を一瞬のうちに丸め込み。押されていただけに終わり方が聊か唐突だったか。

この後、力皇がなんと森嶋に向けてマイクアピール!

力皇:「森嶋さん! また一緒にやりましょう!」

するとそれに呼応した森嶋がリングに駆け上がり、力皇と握手を交わす。

森嶋:「俺らを観ておけ!」

WILD2と丸藤の共闘態勢確立の刹那である(個人的には、森嶋選手が勿体ない気もするが)。次の一手はどう出るのか。愉しみが増えてきたかも。

(第7試合)三沢光晴 & 小川良成 & 鈴木鼓太郎 VS スコーピオ & バイソン・スミス & ドノヴァン・モーガン @ 60分1本勝負

ベイダーのいない外国陣営。それだけに、今後が気に掛かる。テーマとしては、外国陣営がどれだけ結束を固められるかという点ではないだろうか。

ゴング前から、いきなり突っかかっていく外人組。選手コールもないままに、試合が始まる。Tシャツを脱ぐ間もなく、小川もやり返すものの、この日の外人勢は兎に角気迫面で三沢組を圧倒していたのは間違いない。モーガンを始め、選手の動きも気迫の面でも、外人勢が上廻っていた印象を受けた。鈴木の動きが良いものの、捕まってしまってはどうしようもない。

それでも、三沢はエルボーでバイソン等をふっ飛ばしたり、プランちゃ披露など動きそのものは悪くなかったものの、この日の外人組の勢いの前にはどうすることもできず。

スコーピオが鈴木を高角度パワーボムに落とすもカウント2。だが、このダメージが甚大だったか、最後はモーガンに仕留められて終わり。ちょっと他の試合と較べて、矢張りこの日のメインは落ちるかなという印象。面白くなかったという訳ではないが、矢張り最後は三沢組が締めて欲しかった部分はあったのかもしれない。

この日の外人勢。試合終了後も兎に角三沢組に食ってかかる。既に試合を終えたモデストも乱闘に加わり、リング上でセコンド陣を交えた騒擾に。そして、外人勢が放送席に向かって結束をアピール。ベイダーがいない現状。こうして外人勢が結束をアピールするというのは、良い傾向と観て良いだろう。誰が頭を張るのか。そこからまた、新しい競争関係が芽生えてくれば、外人勢のレベルアップにも寄与するに違いない。

欲を言えば、後1枚(名前的にも肉体的にも)大きい選手を加えて欲しいところだが。

 

この日の観戦から。個人的には満足出来たのだが、観る人にとっては矢張り考え方も千差万別であろうから、此処をこうすれば良いのに、という気持を抱いている人も、当然居るに違いない。再三再四なのだが、選手が自分のやるべきことをキッチリと果たせば、自ずとファンの不満も減ってくる筈。

その点では、個人的にこの日の中堅選手は、持ち味を十分に発揮して戦っていた様に思える。これを持続させないことには、ファンの共感も得られない。頑張って貰いたいところである。

さて、同行できなかった輩。もし、この日一緒に観戦していたとしたら、果たしてどういう感想を抱いていたのであろうか。機会が有れば、何とかして一緒に観戦したいという、この気持は日増しに高まってきている。

午後9時。大阪難波。春はもう近いというのに、未だ吹く冷たい風が、私の心に何処か寂しげな気持を運んできそうでならなかった。そういう寂しげな気持を振り払おうと、この日も私は缶コーヒーを一気に呷る。(観戦記終わり)